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乾電池をめぐるたたかい

2月といえば、8月と並んで世間一般では売り上げが伸び悩む時期と言われていますが、司法書士、行政書士にとっては「相続登記はお済みですか月間」「行政書士の日」とゆかりが深く、なかなか忙しい1か月間です。

特にバレンタインデーは、仕事の合間をぬって愛を込めてラッピングしたチョコレートをカードまで添えて渡したのに食べるのは一瞬というトホホなイベントではありますが、それはそれで機微というか醍醐味というか人生に面白みのようなものを与えてくれます。


さて、そんなバレンタインデーに水を差すようで申し訳ないのですが、今回はある夫婦間における問題を「乾電池」をモチーフにお話ししたいと思います。

下記の会話は、以前「恋愛と耐性」という記事を書いた時に取り上げた本の内容をもとにしています。

それではご覧下さい。


【ある夫婦間の逆転現象】


夫から妻へのDVをやめさせるために更生プログラムの治療中


妻「会社帰りに乾電池を買ってきて。」

夫「わかった。」


夫(乾電池、乾電池、忘れたら大変だ……。)


帰宅後、乾電池を買い忘れたことに気付く夫


夫(しまった!忘れた、どうしよう……。)


妻「乾電池は?」

夫「……あの、えっと、忘れた。ごめん。」

妻「なんで忘れたの!?」

夫「ごめん!途中まで覚えてたんだけど忘れたんだ。」

妻「こんな簡単なこともできないの!?」

夫「ごめんなさい……。」

妻「謝れば済むと思ってるの!?本当は私のことなんかどうでもいいと思ってるんでしょう!?今まで私がどんなに苦しんできたか知らないくせに!!やっぱりあなたは何も変わらない!!」


いかがでしたか?

まず、DV更生プログラムというのは、医師によるカウンセリングや自助グループでのワーク等を通してDVと向き合う手順のことです。この会話では夫がDV加害者として更生プログラムを受けているという設定です。

そんな中、乾電池の買い忘れというささいな行き違いがとんでもない結末を迎えてしまいました。

加害者と被害者は固定的なものと思われがちですが、今まで虐げられてきた妻の不信感が爆発して暴力につながってしまったという逆転現象を見ると、両者は流動的なものだということがわかります。

ここで間違えてはいけないのは、被害者にもDVに至る原因があるということではありません。

あくまでもDV加害者に原因があり被害者は悪くない、けれども、DVに前向きに取り組んでいる過程で力関係が逆転してしまうことがありうるという話です。


先日、高校生法律講座の一環としてデートDVについて話す機会があり、前半は講義、後半は上記会話を元に「この夫婦はどのような受け答えをすればよかったか?」をテーマに即興でディスカッションを行いました。

始めは戸惑っていた生徒たちも司会進行役、記録係、妻役、夫役と割り振りが決まるとどんどんアイディアが湧いてきて、最後には寸劇の形で等身大の思いをぶつけてくれました。

いわゆる「正しい答え」はありませんが、生徒たちの真剣な表情は、迷いながら講義を行っている私にとって希望の光となりました。


余談ですが時節柄「恋と選挙とチョコレート」の方がタイトルとしてしっくりくるのですが、話題が広がりすぎるため今回は見送ることにしました。