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相続登記はお済みですか月間

2月はなんと、「相続登記はお済みですか月間」だそうです。
宿題や夕飯とはわけが違うのだから、相続登記はお済みですかと

聞かれても即答できませんよね。

とはいっても、決して、当事務所の宣伝のためにでっちあげた

デタラメではありません。

れっきとした日本司法書士会連合会の公式キャンペーン月間

なのです。

忘れがちな森林
忘れがちな森林

いつかは必ず必要になる相続登記であるにもかかわらず、何故

わざわざ「キャンペーン」などと銘打っているのでしょうか?

それは、言うまでもなく、「相続を争族にしないために」

というキャッチコピーもあるとおり、相続人間で利害関係が

対立するケースが多々あり、親族間で争っている間は相続手続が

進まないからです。

仮に争っていなくても、「面倒くさい」「お金がかかる」という

理由から何世代も放置してしまうことはよくある話だからです。

とはいえ、すでに様々な相続登記問題は解決済みであり、

目新しさに欠ける分野でもあります。

そこで、今回は、「面倒くさい」「お金がかかる」という方の

ために、相続登記をしなくても済む可能性について考えてみたいと思います。

面倒くさいしお金がかかる
面倒くさいしお金がかかる

相続制度がある限り、相続人の方々は亡くなられた方の一切の

権利義務を承継するのが原則です(民法第896条)。

もっとも、下記のとおり、相続放棄の申述をすることによって

相続人から外れることができます。

もちろん

 

「相続したくないわけではなく、相続登記が面倒くさいし

お金がかかるから嫌なのだ」

 

というご意見がおありでしょうから、

「一度手放した不動産がまた手元に戻ってくる方法」

名付けて「ブーメラン戦法」についてご説明いたします。


一軒家
一軒家

例として、ABが共有する一軒家の相続について考えてみます。

ABは夫婦で、ともに親兄弟等の

身寄りがなく、子供もおらず、

お互いに相手以外の相続人はいないものとします。

Bが亡くなったところからスタートです。

 

①相続放棄の申述(民法第939条)

まず、Aが家庭裁判所に対して相続放棄の申述をします。

ここでAは一度相続人から外れます。

 

②相続財産管理人の選任(民法第952条第1項)

BにはA以外の相続人がいないため、代わりに相続財産を

管理・清算する人を選びます(1度目の公告)。

 

③相続債権者及び受遺者への弁済(民法第957条第1項)

Bの債権者や受遺者がいる場合には、相続財産管理人が時には

不動産を売却して支払いをします(2度目、3度目の公告)。

今回はBは借金を負っておらず、また、遺言書も残していないものとします。

 

④特別縁故者へ相続財産分与(民法第958条の3第1項)

亡くなったBと生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者、

その他Bと特別の縁故があった者の請求により、家庭裁判所は

Bの相続財産の全部または一部を与えることができるという

規定があり、例えば、内縁の妻、事実上の養子等が特別縁故者に

当たります。

今回はBの関係者はAしかいないものとします。

 

⑤他の共有者に帰属する(民法第255条)(最判平元.11.24)

ゴムひもを伸ばして片方の手を放すと、

ゴムひもは縮んで元の長さに戻ります。

今回のように不動産の共有者が亡くなり、他の共有者以外の

関係者がいない場合、亡くなった共有者の持分は伸ばした

ゴムひもと同じように縮んで他の共有者に帰属します

(所有権の弾力性)。

 

やれやれ、13か月かけて、やっとAの手元に戻ってきました。


ブーメラン戦法
ブーメラン戦法

こうして見ると、「ブーメラン戦法」の成功のためには

◆共有であること

◆他の関与者がいないこと

◆時間に余裕があること

が必須条件であるため、非常に厳しいと言えるでしょう。

 

そもそも、何だかんだで結局「登記」をすることに変わりなく、

むしろ、時間や登録免許税の面で損をすることになります(※)。

やはり素直に相続登記をした方が都合が良いようです。

最後の最後に当事務所の宣伝になってしまいましたが、

3月を迎える前にお聞きしたいと思います。

 

相続登記はお済みですか?


※例外的に、Bに膨大な借金があり、かつ、AがAB共有不動産に居住中というような場合には、AはBの借金を相続せずに不動産を取得できる可能性があるので、今回ご紹介した「ブーメラン戦法」も試してみる価値はありそうです。

 

……と思いましたが、上記③に当てはめると、相続財産管理人が

Bの債権者に支払いをしなければならないので、この場合でも、

Aはすんなりと不動産を取得できるとは言えないかもしれません。

 

【参照】

裁判所 相続財産管理人の選任

 

判例特別縁故者法 久貴忠彦 有斐閣双書